東京の弁護士 患者側の医療ミス事件を取り扱っています

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診断ミス、検査義務違反、手術適応判断ミス

診断ミス、検査義務違反、手術適応判断ミス 事例1-1

脳動脈瘤の破裂によるクモ膜下出血の事案において、病院は、脳卒中との判断をしており、項部硬直が認められたのであるから、髄液検査のための腰椎穿刺を行うべきであったのにこれを行わなかったことについて過失を認めた事例

(事案の概要)
・午前4時30分頃(季節は秋)、当時60歳の女性が、台所で突然倒れて昏睡状態に陥り、病院に搬送されたが、意識は全くなく、嘔吐、尿失禁があり、表情から激しい頭痛がうかがわれた。
・担当医は、当初、頭部打撲による硬膜下血腫を疑ったが、後に、脳卒中との判断に変更した。治療としては、点滴、注射を施した。
・翌日、患者は意識を取り戻して頭痛を訴えるようになり、担当医は、髄液検査を行おうとして腰椎穿刺を試みたが、うまく刺入できずに断念した。
・数日後、他院に搬送され、検査したところ、中大脳動脈の脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血と診断された。その後、治療の甲斐なく死亡した

(裁判所の判断)
・意識を取り戻した時点で注意深く観察すれば、項部硬直を発見し得たと推認される。
・髄液検査と項部硬直は、ともにクモ膜下出血の診断にとって重大な要素であるから、もし早期に腰椎穿刺による髄液検査、確認をしていれば、クモ膜下出血との診断に達し得たはずであり、これら検査、確認をしなかった点に過失が認められる。
・脳卒中との判断を得ていたのであるから、重要な鑑別項目である髄液検査の結果が得られない以上、クモ膜下出血の可能性も十分考慮し、そのために諸検査設備を有する専門病院に直ちに転送して、確定診断や手術の要否判断を委ねるべきであった。
・因果関係‥‥肯定。しかし、因果関係の割合は35%

(請求額と判決認容額)
2540万円→653万円

(広島地裁 昭和62年4月3日判決 判例タイムズ657号179頁)

診断ミス、検査義務違反、手術適応判断ミス 事例1-2

34歳男性が血尿が出たことから病院を受診したところ、実際は高度の水腎症であったのに、巨大な肝嚢胞との診断を受け、その後、肝嚢胞の手術中に心停止を起こすなどして、術後約2ヵ月で死亡した事例

(事案の概要)
・1月5日、患者(34歳男性)は、血尿が出たことから、病院を受診したところ、入院加療を要する巨大な肝嚢胞がある旨の診断を受けたが、実際は高度の水腎症であった。
・1月11日に入院し、肝嚢胞の治療を受け、2月23日に肝嚢胞の手術(腹腔鏡下嚢胞開窓術)を受けたが、術中、心停止を起こし、蘇生後、開腹手術に変更して続行したが、再び心停止となった。
・蘇生術により、一旦蘇生したが、意識を回復しないまま、4月14日に死亡した。

(裁判所の判断)
・患者が、無症候性の血尿を訴えて病院を受診したのであるから、担当医としては、まずは尿路系の疾患の可能性を考えるべきである。
・次の諸点を総合的に考えれば、担当医としては、患者が肝嚢胞でなく、水腎症であると診断できたはずである(過失あり)。
①CT画像によれば、担当医が嚢胞と診断した部分の内部に造影剤が付着、貯留しているのが容易にわかり、CT検査に用いられた造影剤は、腎排泄性で全量が尿中に排泄されるのであるから造影剤が付着、貯留していた部分は尿のある場所であると考えるのが相当であり、担当医としては、右部分が肝臓でないことを当然疑うべきであった。
②別のCT画像では、それまで肝嚢胞とされてきた部分と肝臓との境界や、拡張した腎盂様の像が見て取れ、CT画像中に患者の右下腹部に尿管結石とも考えられる像が写っているものがあった。
③患者は、嚢胞と診断される部分に純アルコールを注入されることで、急激に体調を崩し、血液検査にも腎疾患を窺わせるような結果が出ていた。
・因果関係‥‥肯定

(請求額と判決認容額)
1億2877万円→9161万円

(浦和地裁 平成11年10月15日判決 判例時報1719号109頁)

診断ミス、検査義務違反、手術適応判断ミス 事例1-3

48歳女性が脳神経外科を受診し、脳底付近に未破裂脳動脈瘤の存在が確認されたためクリッピング手術を受けたところ、架橋静脈を切断したことによる静脈性脳梗塞が発生し、後遺症が残った事例

(事案の概要)
・患者(48歳女性)は、7月4日、自宅で異常行動をとったことから受診した病院で精密検査を勧められ、被告病院の脳神経外科を受診した。
・脳神経外科では、頭部CT、MRI,MRA検査をを行い、さらに脳血管撮影検査を行った。
・これら検査結果を受け、被告病院内の症例検討会が開かれ、その結果を受け、担当医は、患者にクリッピング手術を勧め、クリッピング手術が行われた。しかし、手術翌日、患者の右前頭葉の脳腫脹が発生し、その原因は手術において右側前頭極の架橋静脈を切断したことによる静脈性脳梗塞であると推定された。
・そこで、頭蓋内圧亢進を軽減するため右前頭葉切除術を行ったが、その甲斐もなく、両眼の視野欠損と嗅覚脱失の後遺症が残った。

(裁判所の判断)
・未破裂脳動脈瘤がある場合にクリッピング手術を行うかどうかを判断するには、未破裂脳動脈瘤の大きさ、増大速度、部位、形、自然経過、患者の年齢、状態及び合併症の有無、手術を行う施設、術者の技術水準等の具体的事情を基礎として、当該未破裂脳動脈瘤が破裂する危険性及び当該患者に対するクリッピング手術の危険性を総合的に勘案する必要がある。
・本件クリッピング手術は、次のような点からすると、当時、手術適応がなかったものである(過失あり)。
 ①患者の前大脳動脈遠位部動脈瘤は最大径2mmであるところ、脳動脈瘤の直径が4mm以上であれば一般的に破裂しやすいと言われていることや直径が2mmの脳動脈瘤が単独で存在する場合は手術適応があったかは疑問であるとの証言があることからは、脳動脈瘤破裂の危険姓はそれはど高くなかったとうかがわれる。
 ②他方、患者は48歳で余命30年以上であり、患者の動脈瘤にはblebがあって壁が薄く透見できることや術中に血液が渦を巻いているような所見があったことからすると、患者の動脈瘤が将来的に破裂する危険性は相当程度あった。
 ③術前の脳血管撮影の結果からは、患者の右側前大脳動脈遠位部動脈瘤についてクリッピング手術を実施するには、架橋静脈を切断することが不可避であると判断されており、現に、手術の際、架橋静脈2本が切断された。このようなことから、本件手術に際して架橋静脈を切断すれば、静脈環流障害を起こす危険性があったといわざるを得ず、本件クリッピング手術は、通常よりも危険性が高かった。
 ④以上の点に加え、本件クリッピング手術は、無症候性の未破裂脳動脈瘤についての予防手術であり、患者の脳動脈瘤は、多発性であったが全て無症候性のものであったことからすると、静脈性環流障害を引き起こす危険性を冒してまで架橋静脈の切断を伴う本件クリッピング手術を緊急に実施すべき必要性はなかったといわざるを得ない。
・因果関係‥‥肯定

(請求額と判決認容額)
5500万円→2950万円

(東京地方裁判所平成12年5月31日判決 判例タイムズ1109号214頁)

診断ミス、検査義務違反、手術適応判断ミス 事例1-4

激しい頭痛等のため来院した患者(52歳女性)に対し、検査や投薬等を行ったものの、数日後、脳動脈瘤の破裂によるクモ膜下出血により死亡した事案において、診察した一般内科医や神経内科医について、脳神経外科医に連絡をとってCT写真の読影を依頼するなどの措置を講じなかったことに過失が認められた事例

(事案の概要)
・患者は、ある晩、激しい頭痛、悪心、嘔吐を訴えて、被告病院を受診したが、内科医であった当直医は、問診、頭部CT検査等の検査を行い、翌日、来院することを勧め、帰宅させた。
・翌日、患者は被告病院を受診して内科医の診察を受けたが、内科医は神経内科医の判断を仰ぐことにし、患者は神経内科医の診察を受けた。
 神経内科医は、それまでのカルテ記載を確認したうえで、片頭痛、緊張性頭痛、緑内障などを疑ったが、さらに所見を取り、一番考えられるのは緊張性頭痛だが、髄膜炎やクモ膜下出血も考えられるため、患者に検査のための腰椎穿刺を勧めたが、患者は断り、帰宅した。 ・蘇生術により、一旦蘇生したが、意識を回復しないまま、4月14日に死亡した。

(裁判所の判断)
・内科医であった当直医にとって、CT写真から出血を読み取ることは困難であり、クモ膜下出血との診断を下すことは困難であったといえる。しかし、CT画像には明らかな異常があったのであるから、臨床症状からはくも膜下出血が疑われる典型的な症状が認められ、くも膜下出血が放置すれば死亡する危険があり早期に手術をする必要性が高いものであることを十分念頭におけば,当直医は,くも膜下出血を専門領域とする脳神経外科医に相談すべきであった(過失あり)。
・その後、診療を行った内科医についても、それまでの経緯からクモ膜下出血が疑われ、CT写真からすれば、当直医と同様、くも膜下出血を専門領域とする脳神経外科医に相談すべきであったといえる(過失あり)。
・神経内科医は、主にパーキンソン病、脊髄小脳変性症等の神経疾患を扱っており、クモ膜下出血を専門的に扱うものではないが、CT写真等の読影は日常的に行っていて、クモ膜下出血の発見も何度も経験している。そうだとすると、神経内科医が、CT写真の読影によってクモ膜下出血を疑うことが難しかったことを認めるに足りるだけの証拠は乏しいし、仮にクモ膜下出血との確定診断ができなくとも、クモ膜下出血を疑ってこれを専門領域とする脳神経外科医に連絡をとって、本件CT写真の読影を依頼するなどの措置を講ずるべきであった(過失あり)。
・因果関係‥‥肯定

(請求額と判決認容額)
5774万円→4929万円

(名古屋高等裁判所平成14年10月31日判決 判例タイムズ1153号 231頁)

診断ミス、検査義務違反、手術適応判断ミス 事例1-5

64歳男性が腹痛を訴え、救急搬送された病院で検査を受け、急性胆嚢炎と診断されたものの、実際は、総胆管結石の嵌頓から、急性閉塞性胆管炎、重症急性膵炎も発症して死亡した事案において、重症急性膵炎との診断をしなかった点に過失(診断ミス)が認められた事例

(事案の概要)
・患者(64歳男性)は、腹痛のため受診した他院から救急車で被告病院に搬送され、担当医の診察を受け、各種検査の結果、急性腹症、急性胆嚢炎と診断され、午前10時頃、入院することになった。
・入院後、患者は、抗生物質や肝細胞障害抑制剤、膵酵素阻害剤の投与を受けたが、腹痛は収まらず、全身状態も悪化していった。
 そこで、担当医は、胆嚢炎が進行して胆管炎が併発した可能性もあると考え、排液して炎症を和らげるため緊急経皮経肝胆嚢ドレナージ(PTGBD)を行おうとし、他医師の応援を頼み、同日の夕方、その医師が、緊急経皮経肝胆嚢ドレナージ(PTGBD)を行った。
・ところが、その後、患者は、急に顔色が悪くなり、意識を喪失し、呼吸停止となったため、気管挿管による人工呼吸が施され、患者の容態はいったんは落ち着いた。
しかし、同日の晩、患者はショック状態になり、ったので、転院し、治療が続けられたが、翌日夕方、死亡した。

(裁判所の判断)
・患者には、総胆管結石の嵌頓があり、初診時から腹痛ないし腹膜刺激症状があり、胆嚢の腫脹と膵臓の軽度腫脹が認められ、血中膵酵素が上昇していたことやその後の経緯からみて、患者は、急性胆嚢炎、急性閉塞性胆管炎、重症急性膵炎を発症し、さらに敗血性ショックのなり死亡したと推認できる。
・厚生省による急性膵炎と重症急性膵炎の診断基準は、当時、合理的なものとして承認されており、比較的容易に入手できる医学文献にも紹介されていた。
 そうだとすうと、担当医は、上記経緯や腹部レントゲン写真において遊離ガス像がみられず、腸閉塞、十二指腸潰瘍、胃潰瘍の先行に基づく先行性腹膜炎の所見はうかがわれなかったこと等から判断して、入院した日の午前中には、重症急性膵炎と診断し、適切な治療をすべきであった。
 ところが、担当医は、急性胆嚢炎と診断し、急性膵炎と診断せず、急性膵炎としてはおよそ不足した輸液や膵酵素阻害剤の投与しかしなかった点に過失がある。
・因果関係‥‥肯定

(請求額と判決認容額)
4700万円→4076万円

(山口地方裁判所岩国支部平成12年10月26日判決 判例時報1753号108頁)

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